日本人の老後の経済状態は世界ランキングでほとんど最下位?
投資銀行である「ナディクス・グローバル・アセットマネジメント」社が、「2017年世界年金受給者生活水準ランキング」を発表したそうです。
調査対象43ヶ国のうち、日本は総合ランキングが22位、「生活の質」では圏外であるとのことで、老後の生活水準は最下位に近いようです。
このような結果になってしまった理由について、考えてみましょう。
生活保護よりも受給額が少ない日本の基礎年金
日本では、現役時代に厚生年金に加入していなかった場合、老後に受給する公的年金は基礎年金のみとなり、その金額は生活保護費の半額程度であるようです。

生活保護の受給者が、最低限の生活水準が維持できる程度の保護費を受給していることから考えると、基礎年金だけの受給者の老後は破綻しているに等しいのではないかと、考えられそうです。
いくつかの都道府県では、生活保護 > 最低賃金 > 基礎年金の順に金額が多いとのことです。これは、海外の多くの国が「最低賃金 > 基礎年金 > 生活保護」であることと、大きく異なります。
OECD加盟国の中では、韓国も日本と同様に基礎年金が少ないそうです。
その理由は、「子供が親を扶養するのが当然である」という儒教的な考え方があるためではないかと言われているようです。
しかし、そのような考え方とは逆に、親が成人した子供を扶養しなくてはならない状況も一部には出てきているのも事実です。いわゆる、成人して自宅に住む無職もしくは収入が低くて独立生活ができない人や、いわゆるニートなどを、親が養う、という状況です。
若者のひきこもりや非正規労働が社会問題化していますが、親から経済的に自立して結婚し、子供を産むことが困難になれば、子供ができることはなく、否が応でも少子化は進行します。
若者の価値観の変化で「結婚しない」とか「自家用車は持たない」のだと言われることもあるようですが、職が安定せず、所得が伸びず、経済的に安定しない状況では、結婚や車の購入は困難なはずです。
家賃を払えるだけの収入がなければ、親と同居し続けるしかなく、親元から出られないことで精神的にも自立が妨げられ、結婚も遠のくのかもしれません。
積立方式から賦課方式へ
現在の日本の年金は賦課方式が取られていて、アメリカ、イギリス、ドイツ等でも同様です。
以前の積立方式では、現役時代に自分で積立てた保険料を国が資金運用したものが老後に受け取れたため、現役世代に負担を掛けることはなかったのです。

日本では、高度経済成長に伴い年金財政が潤っていた頃、国が大盤振る舞いをしてしまったことがあるそうです。
1970年から現在までに、800兆円程度がばらまかれてしまったそうで、年金の受給額の割りには納める保険料は少なくされていた時期もあったようです。
今後も少子化の進行が止められないのなら、以前のように年金を積立方式に戻す必要があると指摘する専門家もいるようです。
第三号被保険者(専業主婦)の問題
1986年より、日本では、第二号被保険者(厚生年金)である配偶者に扶養されている人(第三号被保険者:主に専業主婦)は、保険料を納めなくても年金が受給できることになっています。
厚生年金と共済年金の原資に余裕があった時期に創設された制度ですが、その廃止をめぐって何度も声が上がっています。
海外の制度を見ても、配偶者の保険料を減額することはあっても免除することはなく、日本独自の制度です。
第三号被保険者が受給者となって受け取る年金の総額は、年間8兆円とも言われており、国内の生活保護費3兆8千億円の2倍余りもの金額で、年金財政の赤字の大きな原因になっていると言われています。
世代間の不公平感は増大し、年金は破綻へ

厚生年金だけを見ると、1940年生まれの受給者では払った保険料総額よりも受給できる年金が約3,000万円も多く、2010年に生まれた受給者は、その逆になるそうです。
そのため、高齢者は多額の金融資産を蓄えることになったとも考えられています。
実際、日本の金融資産の大半は高齢者が持っているとされています。
高齢者は増加して若者が減少するため、若者1人当たりの負担がどんどん増えて、子供や孫の世代に借金を背負わせて高齢者が長生きしている状況になりつつあります。
しかも、日本は世界に誇る長寿国ですから、長生きするほど年金破綻に加担することになるという皮肉なことになってしまいます。
日本人は、老後の蓄えができない
日本人はよく働く国民であり、ほとんどの人が堅実に暮らしてきたはずですが、意外にも年金の他に老後の蓄えを用意していない人が多いそうです。

老後の主な収入源が公的年金であることは各国共通でも、例えばアメリカでは、企業年金や私的年金を老後の収入源として挙げる人が他国より多く、現役時代に備えているようです。
人生の中で大きな出費と言えば、マイホームを持つことや子供の教育費等ですが、日本では両者ともかなり大きな負担になっていると言えます。
日本では、ゼネコンや不動産・建設業界にまで政治が介入し、持ち家政策が推進されてきました。たとえ生活が苦しくても、多額のローンを組んで持ち家を購入してこそ一人前のような考え方です。
サラリーマンが35~36年間もかけて返済をすることになる住宅ローンは、退職してもまだ完済できていないこともあるようです。
ローンでマイホームを購入すれば、多額の利息収入を得る銀行も工事を請け負う建築業者も、膨大な利益を得て経済が成長してきたのかもしれませんが、ローンの返済に追われて、さらに子供の進学で多額な教育費がかかるため、老後の備えまでは手が回らない状況になっても不思議ではありません。
他国では、中古住宅の市場が大きく、築年数の長い住宅も多いようですが、日本では、20年が経過したら家の価値はゼロになるとされていて、スクラップ&ビルドが非常に早いサイクルで繰り返されるのが一般的です。
しかも、少子化が進んで空き家問題が深刻化している状況でありながら、一方ではタワーマンション等の建築も加速しており、今後は不動産ならぬ「負動産」が増加することを懸念する声も多くあります。
教育費の負担は日本と韓国が大きい
文部科学省が2016年に発表した、諸外国の教育に関する統計では、日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国、韓国について、費用に関する結果も示されています。

フランスとドイツでは、大学の入学金と授業料は無料とのことです。
その他の国では、金額の差はありますが入学金も授業料も有料で、中には日本の大学よりも負担が大きい国もあるようです。
大きな違いは、日本以外の国では給付型の奨学金が既に制度化されていることです。国の財源で給付する奨学金だけでなく、地方公共団体や民間の金融機関等が給付する奨学金もあるようです。
日本でも、ようやく給付型の奨学金が制度化されましたが、国の財源を主としているため、今後の存続も含め注意して見ていく必要がありそうです。
老後の生活を支えるはずの日本の年金制度は、受給開始年齢を繰り下げて受給額を減額することが大前提の先細りの制度と化していて、ほぼ破綻しているといっても過言ではないかもしれません。
老後破綻から身を守るためには、いったいどうすればいいのかと頭を抱えずにはいられない状況ではないでしょうか。